はじめに
製造業の現場では、モーター、ポンプ、ファン、コンプレッサー、搬送装置など、多くの設備が回転機械や駆動部品によって構成されています。
こうした設備では、軸受の摩耗、回転部のアンバランス、取り付け部の緩み、芯ずれ、潤滑不良などが進行すると、振動の大きさや変動パターンに変化が現れることがあります。
そのため、振動センサーを用いた予兆保全は、製造業の設備保全において重要な取り組みの一つです。
一方で、振動センサーを設置すれば、それだけで故障を完全に予測できるわけではありません。
振動データを保全判断に活用するには、設備構造、センサー設置位置、運転条件、故障モード、点検記録、保全履歴と組み合わせて解釈する必要があります。
本記事では、製造業の設備保全部門、経営者、DX推進担当者向けに、振動センサーを用いた予兆保全の考え方、振動データで見えること、Pythonによる疑似データ可視化例、予兆保全PoCで確認すべきポイントを解説します。
製造業で振動センサーを用いた予兆保全が注目される背景
製造業では、設備の突発停止が発生すると、生産計画、納期、品質、コストに大きな影響を与えます。
特に、ポンプ、モーター、ファン、コンプレッサーなどの回転機械は、工場内のさまざまな工程で使用されており、故障による影響が広がりやすい設備です。
従来の設備保全では、一定期間ごとに点検や部品交換を行う予防保全が一般的でした。
予防保全は計画的に保全を行いやすい一方で、設備の実際の状態に関係なく交換や点検を行うため、まだ使える部品を早めに交換してしまうことがあります。
反対に、点検周期の間に異常が進行した場合、突発故障を防げないこともあります。
そこで、設備の状態をデータで把握し、故障につながる可能性のある変化を早めに捉える予兆保全が注目されています。
振動センサーは、回転機械の状態変化を捉えるうえで有効な手段の一つです。
振動センサーで何がわかるのか
振動センサーを用いると、設備の振動の大きさや変化を時系列データとして取得できます。
振動データから確認できる代表的な情報は、以下の通りです。
| 見えること | 内容 |
|---|---|
| 振動の大きさ | 通常時と比べて振動レベルが高くなっていないか |
| 振動の変動傾向 | 時間とともに徐々に振動が増えていないか |
| 突発的なスパイク | 一時的に大きな振動が発生していないか |
| 周期的な変化 | 回転周期や設備動作に関係する変化がないか |
| 正常時との差 | 過去の安定稼働時と比べて状態が変わっていないか |
例えば、以下のような設備状態の変化が、振動データに現れる場合があります。
- 軸受の摩耗
- 回転体のアンバランス
- 取り付け部の緩み
- 芯ずれ
- 潤滑不良
- 異物噛み込み
- 共振
- 過負荷運転
ただし、振動値が上がったからといって、すぐに故障原因を断定できるわけではありません。
同じ振動上昇でも、設備負荷が高いだけの場合もあります。センサーの設置位置が変わった影響かもしれません。運転条件や回転数の変化によって、通常の振動範囲が変わっている可能性もあります。
そのため、振動データは単独で見るのではなく、設備情報や現場の保全履歴と組み合わせて解釈することが重要です。
振動データを見るだけでは予兆保全にならない理由
振動センサーを設置して、ダッシュボードで数値を確認できるようにしても、それだけでは予兆保全として十分に機能しないことがあります。
理由は、振動データを見ただけでは「どの変化が点検すべき異常候補なのか」「どの変化が通常運転の範囲なのか」を判断しにくいからです。
正常範囲は設備ごとに異なる
振動の正常範囲は、設備の種類、構造、設置条件、回転数、負荷、周辺環境によって異なります。
ある設備では問題のない振動値でも、別の設備では注意すべき変化である可能性があります。
そのため、全設備に同じしきい値を一律に適用するのではなく、設備ごとに通常時のばらつきを確認する必要があります。
センサー設置位置で値が変わる
振動センサーは、設置位置によって取得される値が変わります。
軸受近くに設置するのか、モーター本体に設置するのか、架台や配管側に設置するのかによって、捉えられる振動の意味は異なります。
また、設置方向や固定方法によっても値が変化することがあります。
そのため、振動データを比較する際は、センサーの設置位置や測定条件を把握しておくことが重要です。
異常検知と故障原因の特定は異なる
振動データを用いた異常検知は、通常と異なる状態を見つけるための手段です。
しかし、異常候補が見つかったとしても、それだけで故障原因が特定できるわけではありません。
例えば、振動値の上昇が見られた場合でも、原因は軸受摩耗かもしれませんし、アンバランス、芯ずれ、取り付け部の緩み、運転条件の変化かもしれません。
予兆保全では、異常候補を出すだけでなく、点検記録や故障履歴と照らし合わせ、保全判断に使える形へ整理することが重要です。
振動データを保全判断に使うために必要な情報
振動センサーを用いた予兆保全では、振動データだけでなく、周辺情報も重要になります。
| 必要な情報 | 内容 |
|---|---|
| 対象設備 | ポンプ、モーター、ファン、コンプレッサーなど |
| 設備構造 | 回転部、軸受、カップリング、ベルト、架台など |
| センサー設置位置 | どこに、どの方向で、どのように設置しているか |
| 回転数 | 一定回転か、可変速か |
| 負荷条件 | 低負荷、高負荷、起動時、停止時など |
| 運転条件 | 稼働時間、生産品目、周辺温度、運転モードなど |
| 点検記録 | 異音、発熱、振動感、潤滑状態、目視確認結果 |
| 故障履歴 | 過去の故障日時、故障部位、交換部品、原因 |
| 保全履歴 | 部品交換、調整、清掃、給脂、締結確認など |
例えば、同じ振動値の上昇でも、以下のように解釈が変わります。
- 高負荷運転中だけ振動が上がる
- 起動直後だけ振動が大きい
- 通常負荷でも振動が徐々に上昇している
- 部品交換後に振動レベルが下がっている
- 過去の故障前と似た変化が出ている
このように、振動データは、設備の状態や現場情報と組み合わせることで、保全判断に活用しやすくなります。
振動データで見る基本的な指標
振動データを活用する際には、まず基本的な指標を理解しておくと、現場担当者やDX推進担当者との会話がしやすくなります。
Root Mean Square(RMS)
RMSは、振動の大きさを平均的に表す指標です。
一時的な値ではなく、一定期間における振動レベルの大きさを確認したい場合に使われます。
RMSが徐々に上昇している場合、設備状態の変化や劣化傾向を確認する手がかりになることがあります。
ピーク値
ピーク値は、一定期間内で観測された最大の振動値です。
突発的な衝撃や一時的な異常を確認する際に役立ちます。
ただし、単発のピークだけで異常と判断するのではなく、発生頻度や運転条件とあわせて見る必要があります。
移動平均
移動平均は、短期的なばらつきをならし、長期的な傾向を見やすくする方法です。
振動値が徐々に上がっているのか、一時的な変動なのかを把握する初期分析として有効です。
しきい値
しきい値は、一定の基準を超えた場合に異常候補として扱うための基準です。
ただし、しきい値は設備や運転条件によって変わります。
そのため、単純に一律のしきい値を設定するのではなく、設備ごとの正常範囲や保全履歴を踏まえて調整することが重要です。
Pythonで疑似振動センサーデータを可視化する
ここでは、Pythonを用いた疑似振動センサーデータの可視化例を紹介します。
対象は、製造現場のポンプ設備を想定します。
疑似データには、通常時の振動のばらつき、後半で徐々に振動値が上昇する劣化傾向、一部の突発的なスパイクを含めます。
そのうえで、移動平均、移動標準偏差、簡易しきい値を用いて、異常候補を可視化します。
なお、このコードは予兆保全の考え方を説明するための簡易例です。実際の設備診断では、設備構造、センサー設置位置、運転条件、故障モード、保全履歴を踏まえた分析設計が必要です。
コードで行うこと
このサンプルコードでは、以下を行います。
- 疑似的な振動センサーデータを作成する
- 振動データを時系列で可視化する
- 移動平均と移動標準偏差を計算する
- 簡易しきい値を設定する
- 異常候補をグラフ上で確認する
- RMSやピーク値の考え方を確認する
ブログ本文では、考え方が伝わるように、主要部分のみ紹介します。
# 過去24点分の移動平均と移動標準偏差を計算window_size = 24df["rolling_mean"] = df["vibration"].rolling(window=window_size).mean()df["rolling_std"] = df["vibration"].rolling(window=window_size).std()# 移動平均 + 3 × 移動標準偏差を上限しきい値とするdf["upper_threshold"] = df["rolling_mean"] + 3 * df["rolling_std"]# しきい値を超えた点を異常候補とするdf["anomaly_candidate"] = df["vibration"] > df["upper_threshold"]この例では、通常のばらつきから大きく外れた振動値を、異常候補として抽出しています。
ただし、この判定はあくまで簡易的なものです。
実務では、設備の回転数、負荷、センサー設置位置、点検記録、部品交換履歴などと組み合わせて判断する必要があります。
振動データの異常候補を見つける基本的な考え方
振動データから異常候補を見つける際には、複数の観点で確認することが重要です。
振動レベルの急上昇を見る
短時間で振動値が大きく上昇した場合、突発的な異常や一時的な衝撃が発生している可能性があります。
ただし、一時的なスパイクだけで設備異常と判断するのではなく、その前後の運転条件や再発頻度も確認する必要があります。
振動レベルの継続的な上昇を見る
振動値が時間とともに徐々に上昇している場合、摩耗や緩みなどの進行を示している可能性があります。
このような傾向は、移動平均やRMSを用いると確認しやすくなります。
通常時のばらつきから外れた点を見る
正常時の振動データには、一定のばらつきがあります。
その範囲を大きく外れた点を異常候補として抽出することで、確認すべきタイミングを絞り込めます。
運転条件と照らし合わせる
振動値の変化は、設備の異常だけでなく、運転条件によっても発生します。
例えば、回転数が変わった場合、負荷が増えた場合、起動直後や停止直前などでは、振動値が通常と異なる動きをすることがあります。
そのため、振動データだけで判断せず、運転条件と照らし合わせることが重要です。
予兆保全PoCで確認すべきポイント
振動センサーを用いた予兆保全を本格導入する前に、小規模なPoCを行うことは有効です。
ただし、PoCでは「グラフが作れた」「しきい値を超えた点が見つかった」だけで終わらせないことが重要です。
以下の観点を確認すると、実務導入につながりやすくなります。
| 観点 | 確認内容 |
|---|---|
| 対象設備 | どの設備を対象にするか |
| センサー設置位置 | どこに、どの方向で設置するか |
| データ取得 | 必要な周期・期間でデータを取得できるか |
| データ品質 | 欠損、ノイズ、センサーずれが大きすぎないか |
| 運転条件 | 回転数、負荷、稼働時間との関係を確認できるか |
| 故障モード | 振動変化と故障メカニズムが対応しているか |
| 点検記録 | 現場確認結果とデータ変化を照合できるか |
| 誤検知 | 異常ではないのにアラートが多発しないか |
| 見逃し | 重要な異常兆候を見落としていないか |
| 運用フロー | アラート後に誰が何を確認するか決まっているか |
| 投資対効果 | 停止時間削減や保全コスト低減につながるか |
特に重要なのは、振動データの変化を現場の点検判断につなげることです。
異常候補が出た場合に、誰が、いつ、どの設備を確認するのか。確認結果をどのように記録するのか。次回以降の分析にどう反映するのか。
こうした運用まで設計してはじめて、振動センサーを用いた予兆保全は現場で使いやすくなります。
問い合わせ前に整理しておくとよい情報
振動センサーを用いた予兆保全について外部に相談する場合、事前に以下の情報を整理しておくと、初期診断やPoC設計が進めやすくなります。
| 整理項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象設備 | ポンプ、モーター、ファン、コンプレッサーなど |
| 困っている事象 | 異音、振動増加、発熱、突発停止など |
| 取得済みデータ | 振動、温度、電流、回転数、稼働ログなど |
| センサー設置位置 | 設備のどこにセンサーを設置しているか |
| データ期間 | どの期間のデータがあるか |
| 運転条件 | 負荷、回転数、稼働時間、生産品目など |
| 故障履歴 | いつ、どの部位が、どのように故障したか |
| 点検記録 | 異音、発熱、給脂、部品交換、作業メモなど |
| 期待する判断 | 点検時期、部品交換、停止判断、監視対象の絞り込みなど |
すべての情報が揃っていなくても、検討を始めることは可能です。
重要なのは、今ある振動データで何が見えるのか、追加でどのような情報が必要なのかを整理することです。
SCI総合研究所のMITERASで支援できること
SCI総合研究所株式会社では、設備故障の事前予防診断・予兆保全支援サービスとして、MITERAS を提供しています。
MITERASでは、設備やインフラ機器の振動センサーデータ、時系列データを活用し、設備状態の変化や異常傾向を整理し、診断レポートとしてまとめる支援を行います。
例えば、以下のような課題に対応します。
- 振動センサーを設置したが、データを保全判断に活用できていない
- 設備の突発停止を減らしたい
- 振動データを可視化し、異常傾向を整理したい
- 自社設備の振動データが予兆保全に使えるか確認したい
- 予兆保全PoCを小さく始めたい
- 診断結果をレポートとして整理したい
振動センサーは、予兆保全の入口です。
その先で重要になるのは、取得した振動データを、設備構造、故障モード、運転条件、保全履歴と照らし合わせ、現場の保全判断に使える情報へ整理することです。
また、予兆保全を単発の異常検知で終わらせず、保全判断や投資判断、継続的なデータ活用につなげたい場合は、SHINRA のような戦略的データ活用支援も関連します。
設備データ基盤やDX推進、セキュアなIT運用設計まで含めて検討する場合は、ISHIZUE も関連します。
技術検証やPoCを研究開発・実証実験寄りに進めたい場合は、研究開発サポート も関連します。
まとめ:振動センサーは入口、重要なのは保全判断に使える診断設計
製造業における振動センサーを用いた予兆保全は、設備の状態変化を早めに捉え、突発停止リスクの低減を目指すための有効な取り組みです。
一方で、振動センサーを設置するだけで予兆保全が完成するわけではありません。
重要なのは、振動センサーで取得した設備データを、設備構造、故障モード、運転条件、保全履歴、現場知見と組み合わせて解釈し、保全判断に使える形へ整理することです。
まずは、以下のような流れで小さく始めるのが現実的です。
- 対象設備を絞る
- センサー設置位置を確認する
- 振動データを可視化する
- 正常時のばらつきを把握する
- 異常候補を抽出する
- 運転条件や点検記録と照合する
- 点検や部品交換の判断に使える形へ整理する
Pythonによる疑似振動データの可視化は、予兆保全の考え方を理解する第一歩として有効です。
ただし、実際の製造現場で活用するには、設備構造、センサー設置位置、運転条件、故障モード、保全履歴を踏まえた分析設計が欠かせません。
製造設備の突発停止を減らしたい、振動センサーデータを取得しているが保全判断に活用できていない、まずは自社設備で予兆保全の可能性を確認したい場合は、SCI総合研究所の MITERAS をご検討ください。
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